むかしむかし、たれのどんなのぞみでも、おもうようにかなったときのことでございます。
あるところに、ひとりの王さまがありました。その王さまには、うつくしいおひめさまが、たくさんありました。そのなかでも、いちばん下のおひめさまは、それはそれはうつくしい方で、世の中のことは、なんでも、見て知っていらっしゃるお日さまでさえ、まいにちてらしてみて、そのたんびにびっくりなさるほどでした。
さて、この王さまのお城のちかくに、こんもりふかくしげった森があって、その森のなかに一本あるふるいぼだいじゅの木の下に、きれいな泉が、こんこんとふきだしていました。あつい夏の日ざかりに、おひめさまは、よくその森へ出かけて行って、泉のそばにこしをおろしてやすみました。そして、たいくつすると、金のまりを出して、それをたかくなげては、手でうけとったりして、それをなによりおもしろいあそびにしていました。
ある日、おひめさまは、この森にきて、いつものようにすきなまりなげをして、あそんでいるうち、ついまりが手からそれておちて、泉のなかへころころ、ころげこんでしまいました。おひめさまはびっくりして、そのまりのゆくえをながめていましたが、まりは水のなかにしずんだまま、わからなくなってしまいました。泉はとてもふかくて、のぞいてものぞいても、底はみえません。
SAMPLE/グリム/楠山正雄訳/かえるの王さま/青空文庫
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